スマシス!! 水銀燈1000人斬り
踊り場に足をかけながら、水銀踏は振り返りもせずに剣を振るう。
がきんっ!
鋭い音を聴きつつ身を翻して壁を背に取る水銀燈の前に、壊れたはずの薔薇水晶が浮かんでいた。
「なんで、ここにいるの……」
漏れた呟きに答えることもなく、薔薇水晶の剣が振りかぶられる!
「いったい、なんなのよっ!」
大上段からの迫撃を受け流して、体の崩れた545体目を切り裂く。がらがらと崩れながら消えていく薔薇水晶。悪趣味な再演。
焼けつくような焦りが水銀燈の黒翼をはためかせ、水銀燈はふわりと4階へと降り立つ。
散弾銃のような猛烈な突き!
居並ぶ薔薇水晶が薄気味悪いほどのコンビネーションで繰り出す連撃をなんとかしのいで、咆哮する黒竜で陣形を崩す。
右に逃げた4体、左に避けた3体。
羽に還元されて散った竜の影から飛びだして左の1体を串刺し。右手で叩くように剣を動かしてもう1体も砕く。
残った左側の1体が振るう水晶の剣を避けて、その回転を殺さずに右側へと向き直る。
風の音。
身体を深く沈めて薙がれた剣を回避。同時に1体の脚を分断。くずおれる548体の頭を右肘で砕いて、その場を離脱。
左右の薔薇水晶が振り下ろした二撃は空振りして床に激突。
左側の背後に回りこんだ水銀燈の剣が549体目を貫いて爆散させる。動きの止まっている右側を無視して廊下へと足を向ける――
――頭上から断頭台のように剣が落下してくるっ!
ほとんど反射でそれを避けるが、遅れた剣は叩き落されて乾いた音をたてて床を滑った。
右側にいたはずの1体が空中から襲いかかってきたのだった。
「もう1体は……!」
空中で姿勢が乱れた550体目を膝蹴りで撃墜し、その脚を下ろす前に跳び退く。一瞬後に、剣を振り下ろしたまま静止していた薔薇水晶がはじけ飛び、その奥からもう1体が突貫してきた。
慣性が水銀燈の反撃を阻む。
突きを辛くもかわすが、水平切りへと切り替わった斬撃は容易に水銀燈を切り裂ける。
球体関節が音を鳴らす。
すとんと座り込んだ水銀燈の頭上をアメジストの剣が通過、背後の壁に衝突する。
隙だらけの552体目の腹部を蹴り飛ばして、起き上がりざまに敵の剣を投擲して追い討ちをかけておく。
破砕音を聞きながら自分の剣を拾う。
休んでいる暇はない。
廊下へ出た。
飛来する凶器!
雹のような水晶礫を黒翼で防ぎ、人工精霊を放つ水銀燈。
「メイメイ」
閃光、収斂、――滅亡!
ごうと風を轟かせて、爆心地が姿を現す。残っているのは空の病室と焦げた床、天井だけ。
他はすべて吹き飛んでいた。
窓はおろか中庭側の壁はそっくり爆砕されて跡形もない。反対側の壁もめちゃくちゃになって病室は瓦礫まみれになっていた。
いつの間にか外は雨。
吹き込んでくる雨を浴びながら水銀燈の足が加速していく。
右手に提げた剣の柄を左手で握りなおし、腰の遠心力を使って水平に振りぬく!
病室の扉を剪断して現れた2体の薔薇水晶が同時に爆散、土くれをブチ撒けて病室へと叩き返される。
廊下がごぼっと膨れてぶち抜かれ、墓下から甦る死骸のように薔薇水晶が出現。
神速の貫手が水銀燈の胸部を急襲!
身を反らして回避、左手の剣を右手で持ち替えて588体目の首を刎ね飛ばす! が、新たに現れた589体目の剣がそれを阻止する。
噛みあった剣が啼いて、転瞬、離れた。
588体目の左肘が水銀燈の鳩尾を狙って撃ち出されるが回避。連動した右手が水銀燈の胸倉を掴んで引き寄せると、589体目の剣が首を刈り取ろうと疾った!
刀身で突きの軌道をずらすと、水晶の剣は髪の一房とヘッドドレスの留め紐を駄賃とばかりに喰い千切っていく。
水銀燈がそのまま剣を振り下ろすと588体目と589体目は袈裟懸けに体を分断された。崩れていく。
右側から飛来物を感知。
反射的に右翼が竜と化して吼え猛り、雨を縫って襲いかかってきた紫色の死神を喰いつぶす。
は、と水銀燈が息をついた瞬間、彼女の足元が紫電を放って発光。
悪寒と恐怖に引き摺られて足元を見下ろした水銀燈は即座に床を蹴って離脱、黒翼を広げて、
紫水晶が廊下を埋め尽くす――!
と同時に病室から薔薇水晶が強襲し、水銀燈はからくも斬撃を防ぐものの空中では踏ん張ることもできずに吹き飛ばされる!
煙と残響音を曳いて中庭中空へと舞う水銀燈。
途端に叩きつけるような豪雨が彼女をしとど濡らしてく。外れたヘッドドレスが雨に叩き伏せられてボロ雑巾のように落下していく。目を開く。
悪夢のような光景が眼前に広がっていた。
窓から溢れ出る薔薇水晶、水晶柱が林立する中庭、屋上にひしめき蠢く雛苺、まるで黙示録の天使のように上空に漂う蒼星石。
どれも、どれも、どれも、虚ろで意思のない瞳をしている。
人形だ。
遠くで閃いた雷をゴングに、蒼星石が飛来してくる。
数十体が雨を縫うようにして迫る。
一番早い590体目を受け流して切り裂き、次に591体目の鋏をはじいて蹴りを叩きこむ。692体目は押し返して693体目といっしょに串刺し。
下へと回りこんだ694体目の首をぱきりと蹴り折る。
上方全方位から一気に蒼星石が来襲!
695体目が薙ぎ払われ696体目が突き崩され697体目が肘うちをくらい698体目が黒竜に喰われ699体目が700体目が701体目が702体目703体704体705体、斬撃が斬りおとす!
吼えた双頭の竜がばくりみちりとそれぞれ4体ほど砕き喰った。
今度は下方全方位から蒼星石の突貫。
翼をはためかせて上昇した水銀燈の足元で、十数の鋏が荒々しい音を鳴らしあう。
ぶつかった蒼星石たちが一斉にぐりんと見上げる。
紫の光、
「メイメイ!」
が、
爆音とともに膨れあがり、人形どもを飲み込んでいく。
光の奔流。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
断末魔の叫び声も怒涛の爆撃が掻き消す。
光が滝のように宙をくだり中庭に墜落、紫水晶を砕いてようやく拡散して還元していく。
「強い……」
満足そうに呟いた薔薇水晶が唐突に水銀燈の頭上へと転移!
薔薇水晶による大上段からの斬撃と、水銀燈による垂直薙ぎ払いが激突、火花を散らすッ!
「でも……」
呟いたのは背後に出現した別の薔薇水晶。
振り向いた水銀燈はそのまま身をひねって頭上の水晶剣を受け流し、同時に後ろから突き出された剣も回避する。
水晶同士がぶつかり合って澄んだ音を響かせるが、すべて雨に流されていく。
「でも……、人工精霊は……」
空中で体勢を取り直そうとした水銀燈の頭上にまたもや別の薔薇水晶が。
黒翼をはばたかせて立ち向かおうとした彼女の動きが不自然に止まる。翼が動かない。
ぞくりとする悪寒に振り向くと、瞳の描かれていない雛苺が数体、翼にむしゃぶりついていた。
「きっ、――気持ち悪いのよぉ!」
がむしゃらに翼を動かすが、すでに蔦で絡めとられていてびくともしない。
雨が弱まった、
それがどういうことか考える前に水銀燈の腕が跳ね上がっていた。
ガァアン!
殴りつけるような一撃。
かろうじて剣で受けたものの翼の制御がきかずに彗星のように落ちてしまう。
歯を食いしばる。
直後に何体かの雛苺を巻き込んで屋上へと落下。
咄嗟に立ち上がろうとする水銀燈がふらつく。
全身に雛苺。
にたぁっ。
「―――――――ッ!」
服についた虫か火を払うように両腕を必死に動かす水銀燈。だが、彼女を嘲笑うかのごとく雛苺がとりつき、群がっていく。
雛苺の海に沈んでいく水銀燈。
その右掌が紫電を放ち、
しかし何も起こらなかった。
「人工精霊は連続して……、攻撃できない……」
大砲の威力を持つ人工精霊はその威力ゆえに一定の充填時間を必要とする。
歯噛みする水銀燈の右腕が全力で振るわれ、数体の雛苺を粉砕、吹き飛ばす。
つづいて左側が弾き飛ばされる。
がばっと立ち上がった水銀燈の胸元にぶらさがる雛苺を左手でむしりとる。
無造作に右足を蹴り上げるとばきばきと人形が砕ける。
ひろげた黒翼から鋭い切れ味を持つ羽の刃が数多放たれ、周囲を殲滅していく。跳びかかる雛苺、はいよる蔦轍、すべてが粉々になっていく。
上空から蒼星石が飛来。
黄金色の鋏が、握られた剣の柄がはじかれ、その胴体は回転した刃に切り裂かれる。
分断された742体目が落下するよりも早く743体目が急降下してくるが744体目と同時に砕かれ、745体目と746体目と747体目が三方向から切りかかってくるも無残に散らされ、748体目が隙を突いて下から切り上げるが鋏ごと踏み潰される。
コンクリートが発光。
性質を変化させられ、強制的に分子間構造を組み替えられた擬似大地がアメジストとなって凶暴な牙を突き出す!
華麗なステップを踏んで水銀燈が水晶柱を回避、剣が追撃する蒼星石を断絶。
壊れた人形をも巻き込んで迫撃してくる水晶柱を睨む水銀燈のブーツが天を喰らおうとするアメジストに引っ掛けられる。
伸長する水晶柱に跳ね上げられるようにして水銀燈が空中へと復帰する。
行きがけに切り捨てた749体目である薔薇水晶が散華する前に水銀燈は動いている。
アメジストの剣を構えようとする750体目の胴体に切っ先をねじ込んでそのまま切り落とす。動かなくなった750体目を蹴って剣を抜き、
右腕を振るって751体目の首へと手刀を叩きこむ。
後ろで749体目が還元して消滅。
上下から迫る二本の水晶剣を無視して水銀燈の長い足が振り切られ、752体目のわき腹をえぐる。
同時に身をひねって挟撃をかわし、それぞれの剣が激突してしまった753体目と754体目を一刀で切り捨て、返し刃で752体目にとどめを刺す。
水晶礫を放とうとする755体目の腕をつかみ、握りつぶす。
雨を切り裂いて走った剣が756体目もろとも755体目を斬り、爆砕する。
剣をわきに構えて突っ込んできた757体目を避けざまに薙ぎ、ぬれて滑った柄を掴みなおして758体目を串刺しにする。
もう動かない758体目の全身が発光する!
「!?」
急いで翼で体を覆う――瞬間、758体目の顔から腕から胸から腹から足から鋭い六角錘が伸びて伸びて水銀燈を磔刑に処す!
十数本は黒翼に阻まれて砕け散り、数十本が水銀燈には刺さらず、そして数本が彼女を貫いた。
致命傷には至らなくともこのダメージは大きい。
翼を振るってすべての水晶針を粉砕し、戒めから逃れた水銀燈。翼が痛みで動かない。
雨に叩き伏せられて落下していく。
中庭へと落ちていく水銀燈を追って5体の薔薇水晶が中空から水晶の剣をつかむ。
銀髪の乱れた水銀燈。落ちる。雨よりも早く。
病棟の窓から薔薇水晶があふれかけているのが見えて、目を閉じた。
一閃。
天地反転したまま水銀燈の剣が759体目、760体目、761体目、762体目を斬って吹き飛ばす!
翼を広げて制動、ブーツを鳴らして着地ざまに763体目を切り伏せる。
人形のかけらとともに薔薇水晶が蟲のように降ってくる。
360度全方位からのレギオン・ショック。
中庭で水銀燈は土を踏みしめた。
残り236体。
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