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スマシス!! 水銀燈1000人斬り


中空から剣を引きずり出した水銀燈はその勢いのまま回転、出没した997体目の右腕を斬り飛ばす!
一瞬で逆手に持ちかえて997体目の即座の反撃を受け止める!
さらに997体目の怒涛の攻撃!
ぶつかりあう剣と剣が絶叫の協奏曲を奏でる! 二人で踊るかのように位置を変え距離を変え、せまい廊下で立ち回る!
ギャリリと苦鳴を洩らして刃と刃が噛み合い、鍔迫り合いへと移行する。
片腕だというのに信じられぬ膂力で押し込んでくる997体目の腕を蹴って水銀燈が宙を舞う。
彼女の真下に滑るように転移した997体目の逆袈裟懸けを受け止めざま天井へと着地する水銀燈。
お互いそのまま腕を振るって剣を交錯させる!
双方の膝がショックを吸収し、エネルギーを放出しようと屈伸する。
相手よりも速く鋭く強かに、隙を狙って連なる剣戟を紡ぐ!
一際甲高い音とともに997体目の体が崩れる。
天井を蹴って水銀燈が切り込む――跳んで無理やり997体目が防御するも、吹っ飛ばされる!
跳弾のように追翔する水銀燈。
リノリウム張りの床に剣を突き立てて勢いを殺した997体目の眼前へと降り抜かれる水銀燈の剣――!
があんと衝撃音を引きずってさらに吹き飛ぶ薔薇水晶!

体勢を整えようとする997体目の頭上から、天井を蹴って水銀燈が襲いかかる!
空中でなんとか掲げた水晶の剣を叩き割る勢いで水銀燈の唐竹割が強襲っ、997体目を床へと撃墜する!
球体関節を軋ませて着地した薔薇水晶は弾かれたように横へと転がる。
そのすぐ隣を水銀燈の容赦ない蹴りが通過していく!
薔薇水晶が床に手をついて力を込めるが、水晶柱を励起させる前に水銀燈の足が引き戻されて踵落としを繰り出してくる。
かわしざまにパンと音を立てて壁を叩くも薙ぎ払われた剣をよけるために攻撃を中断せざるを得ない997体目。
水銀燈も、水晶柱の攻撃をもっとも警戒しており、その隙を与えまいと攻撃を重ねる。
突きを受け流し、切り込むが阻まれ、追撃に移ろうとした997体目の一瞬の停止を水銀燈は見逃さなかった。
激烈な気迫とともに打ち込まれた斬撃に水晶の剣は997体目の手を離れ、997体目自身も宙を水平移動する。
掻き乱れる髪の下で薔薇水晶がわずかに笑った。
動物のように四肢で接地、滑りながら床の形質を強制的に変化させる!

「つまんなぁい」

すべてを呑み込む破滅の嵐ッ!
水銀燈が待っていたのは薔薇水晶が水晶柱を励起しようとするその瞬間だったのだ。
攻撃に転じようとした997体目に生じた大きな隙を、埋め尽くして余りある人工精霊による爆撃。
生成された紫水晶をこそぎ取りながら997体目を焼き尽くし融解させ気化させて吹き飛ばすッ!
残存など毫ほども許さない。
高熱のあまりプラズマ化する廊下の跡。それを背にして水銀燈はめぐの病室へと飛んだ。

扉を静かに開ける。
めぐは――静かにベッドに眠っている。無事だ。
ひらりとめぐの枕元へと降り立つ水銀燈。口元を緩めて安堵したその時――

「――安心なされました? お姉様」
声。
不気味な、
からっぽの、声。
「わたくし、その人間には何もしていません。いまは、まだ」
くすくすと、笑い声。
水銀燈が背筋を凍らせながら声のするほうを振り返る。
鏡の向こうで、
「可哀想な第一のお姉様。棘持つ薔薇の愛に縛られて、」
きゃらきゃら笑うのは、白い人形。
造花のような白々しい美しさを持つ、雪華綺晶。
「アリスへの開花をその絡みつく愛に阻害されているのですね」
「貴女の仕業なの……!」
「えぇ、そうです。そうなのです。全てはお姉様の為。お姉様がアリスへと昇華するための……」
「いい加減にしなさいよぉ……!」
怒気を孕む水銀燈の声。

「あら……お気に召しませんでしたか? わたくし、マリオネットには向いていないようです」
雰囲気の一変した雪華綺晶。もうすでに陶酔するような甘ったるさは消えている。
笑顔が軋む。
歯を鳴らして、雪華綺晶が哂いながら鏡の世界から這いずり出てくる。ぞりぞりと。
「あァ……マテリアルの世界はなんと穢らわしいのでしょう。吐き気がします」
そういって、壊れた美貌を歪めてげろりと、
雪華綺晶はその口から白い薔薇と蔦を吐き出した。
息を呑む水銀燈の周りを、否、病室を、否々、世界を覆い尽くしていく薔薇と蔦。
「ッ! めぐ、めぐ!」
蠢く蔦が水銀燈とめぐを越えがたい壁でさえぎる。
「ほゥら、綺麗になりました。まァっしろです」
心底可笑しそうに、首を曲げて哂う雪華綺晶。
とにかく視界に映る全てが白、白、白。
距離感の狂う、とにかくどこまでもどこまでも白く、虚ろな世界。

「でもお姉様? まだ白くないところがあります」
すぅっと雪華綺晶が指差すのは立ち尽くす水銀燈の足元。
漂白された世界に明確な拒絶を示す影。
水銀燈の、影。
けたけたと、
雪華綺晶が哂う。なにが可笑しいのか、それがわからぬことが可笑しいとでもいうように。
「白く、しましょ?」
ずるりと、影が立ち上がる。
輪郭だけは水銀燈のそれが、痙攣しながら背中を曲げながらも独立する。
「さァ滅ぼしてくださいお姉様。虚無こそが真理。虚無こそ、アリス」
ぐっと握った水銀燈の右手が剣を掴む。
うふふふふふと雪華綺晶が哂っている。
壊れた人形のようにびくんと震える影。
くす、と水銀燈が微笑を漏らし、

「虚無こそアリスなんて、笑っちゃうわ」

びッとその剣尖で雪華綺晶を指す。
一瞬、引き攣った笑顔を凍りつかせた雪華綺晶が、クククククククと我慢できないように。
「だったら、お姉様も虚無に呑み込んでさしあげます……」
荊が雪華綺晶にまとわりついて白へと沈み込む。同時に影の隣で荊が隆起し、その中から雪華綺晶が産まれ出でる。
警戒を最上級まで引き上げた水銀燈が油断なく雪華綺晶を睨んでいると、白い人形はまったく卒然に、
「なッ」
影にかぶりついた。
足掻く影にかまいもせずずるずると咀嚼、飲み下していく。
うふふと、哂った。
黒い嵐が吹き荒れ、水銀燈が飛びのく。
風が吹き散っていくと、現れたのは――水銀燈。
その影。
「嗚呼  闇モ 虚無モ 消エ テ シマエ バイイ  ノニ」
黒々と翻る髪、禍々しい白のドレスと両翼。真っ黒な眼窩に輝く赤の瞳。
「どうです、お姉様の影は。なんて、あぁ恍惚としてしまいます、なんて穢らわしいのでしょう!」
影の中から雪華綺晶が興奮した声を上げる。

「全テ 全テ     滅ビ ロォッ!!」
狂ったように突き出した影の両手から白と黒の荊が水銀燈へと迸る!
横へと跳んだ水銀燈の頭上から1000体目の斬撃!
掴んだ剣で打ち払い、水銀燈が体勢を立て直そうとする前に空中で一回転した影の再度の残撃!
前へと転がって回避――獣のように低い体勢で1000体目が突っ込んでくる!
逆袈裟に切り上げた剣を踏んで1000体目が水銀燈の背後を取る! 半回転しながら跳び退る水銀燈を追う白黒の荊!
絡み合う荊の上を影が疾駆する。
舌を垂らして、哂う。
「滅びてくださいませ。お姉様」
振り抜かれた右足刀から白い荊がどっとあふれ出し水銀燈を絡めとろうと迫る!
閃いた水銀燈の剣が荊を断絶!
即座に離脱――1000体目の唐竹割がイカヅチのように落ちる!
回避行動の勢いを乗せて影を薙ぎ払うがすっぱりと千切れ飛んだのは荊だけ。

別の場所で荊の山から影と虚無のキメラが現れる。
「セセセセ殲  滅 スル!」
鳥のように駆けてくる1000体目。
左腕が振られて剣を投げ飛ばす!
音高くその奇襲を弾き飛ばした水銀燈に黒の荊が襲いかかる!
疾風のような連撃で荊を切り飛ばしていくッ!
その剣持つ腕を右手で抑えて白い地面を蹴った1000体目の左足刀が疾る!
鈍い音とともに蹴り飛ばされる水銀燈!
「ぐうっ!」
左手から伸ばした白い荊で剣を絡めとり、それを引き戻して剣を掴んだ1000体目が今度は右の黒い荊で地面を掴んで水銀燈へと跳ぶ!
「あっは!」
可笑しくてたまらないという風に哂う1000体目の風切る薙ぎ!
斜めに構えた剣でそれを捌き、反撃する水銀燈――を嘲笑うかのように舞い上がる影。
水銀燈も地面を蹴ってそれを追う!
影の両腕から繰り出される白黒の荊を切り裂き切り捨て切り落とし切り飛ばすっ!
振り落とされる1000体目の踵!
伸ばした右手でそれを軽くいなして水銀燈が影の懐へと飛び込む!
疾る剣!
その剣筋は無防備な首を一直線に刎ねる――

みし、と
水銀燈の剣が停止する。いや、停止させられた。
止めたのは、
「甘美な憎悪の味がします」
「滅ビ ロ」
1000体目の歯。
全力で振り切られたはずの水銀燈の剣が1000体目に咬まれて完全に停止していた。
「ば――か、な」
剣を咬んだままにやりと哂う1000体目。
呆然としている水銀燈へと白黒の荊を放ち、荊の棺へと閉じ込める!
白い、しかし天使とはまったく異なる翼をはばたかせて1000体目がモノクロの棺へと強烈な突き!
「これで、お終いですね。お姉様」
荊へと沈み込む黒塗りの剣。
しかし。
貫けない。

竜の咆哮!
白と黒の荊をブチ切って双頭の黒竜が現れる!
荊の牢獄を破壊した水銀燈が影へと飛翔する。
「そうこなくては。盛り上がってまいりましたね」
にたぁと哂った1000体目の両腕から白黒の荊が伸び、黒竜をそれぞれ固定する!
一瞬で羽と化して飛び散る竜。
舞い落ちる黒い羽を突き破って水銀燈の薙ぎ!
荊を振り回して剣を、さらに水銀燈そのものを絡めとろうする1000体目に彼女はすべての荊を切り捨てて対抗する!
「 殺ス  」
空中で一回転した遠心力を乗せた影の斬撃!
防御しつつ水銀燈がハイキックを放つ――両者の足が激突!
転瞬、離れた両者の間を白黒の荊が繋ごうと空中を疾駆する!
荊を紙一重でかわした水銀燈へと1000体目が上段から剣を振り下ろす!
防御した水銀燈だが地面に向かって吹っ飛ばされる――それにむかって振り抜かれた1000体目の左足から黒い荊が迸る!

水銀燈の片翼が黒竜へと変じる。
がばァと口を開いて迫る荊へと喰らいつく!
水銀燈が体勢を立て直して着地する。時間を稼いだ黒竜がさらに攻撃しようとするも、
「 ハァァ ァッ !」
旋風のような1000体目の鋭い斬撃が竜の首を刈り取る!
「……………」
鬼神のような戦いぶりを見せる影を睨みながら水銀燈が剣を還元させて消す。
空中にたたずむ1000体目は口を半月にして笑んだ。
「もっと、もっとですお姉様」
「腐 リ落チ ルヨウ ナ 闘争 ヲ  クレ」

残り1体。




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