スマシス!! 水銀燈1000人斬り


「戯言はいいからめぐを返しなさい、ジャンク」
静かな赫怒を孕む水銀燈の声に、呼応するように影が吼える。
「 怒 リモ 憎シミ モ虚  無ヘ  ト 消エル ガイイ !」
同時に白黒の荊が時雨のように降り注ぐ!
地面を蹴って跳びのき、さらにはばたいて荊の空襲をかわしていく!
水銀燈の後方へと回り込んだ1000体目の剣が閃く!
サイドステップを踏んで回避した水銀燈が振り返りざまに深く踏み込んで1000体目の胸倉を掴もうと手を伸ばす!
その右手が紫色に輝いているのを認識すると同時に影の足から白黒の荊が噴き出して水銀燈から一気に距離をとる。
距離に頓着せずに水銀燈が絶滅の波動を解放する――!
白く染められた世界を塗り替える紫電!
轟く爆音、哭く爆風!

ちゃき、水銀燈は剣を掴みなおした。
「あァア、イイですお姉様。終焉の感覚です。痛みという快楽、滅びという救いの予兆」
白黒の反転したドレスもぼろぼろになり、黒い髪も焼け焦げた1000体目が凄絶に哂っていた。
「もっとください、もっと痛みを。もっと快楽を。お姉様」「ドチ ラ カガ  滅ビ ルトイ ウ 運命  ヲ  感ジ サセテク レェェ!」
右手から伸びた黒い荊が地面を掴んで、影が弾丸のように飛来する!
右足、左足と振られた爪先から白黒の荊がそれぞれ複雑な軌道を描いて水銀燈に迫りくる!
地面をえぐって襲いかかってきた荊を切り払い、1000体目が左手で逆手に掴んだ剣をはじく!
黒の荊が横から奇襲!
なんとか剣で受けた水銀燈が吹っ飛ぶが超速で移動した影が咆哮しながら追いつきさらに薙ぎ払う!
影の右足から生えた白の荊が地面を舐めるように這い寄ってくるのを黒竜で喰い千切って阻止!
足から接地――だが勢いがつきすぎて止まれずきりもみ回転してしまう水銀燈の視界に黒――無我夢中で動かした剣に衝撃!
手が痺れて剣を取り落としそうになるのを必死で掴みなおす。
同時に右手と両足で着地し、地面を滑りながら勢いを殺す。

追撃してきた影の下段からの斬撃を紙一重でかわして水銀燈が反撃する!
回避先を埋めるように双頭の黒竜が牙を剥く!
水銀燈が放った横薙ぎの一閃を――横にも後ろにもよけられない、剣では受けられない攻撃を影は、前へと踏み込んで攻撃それ自体を阻止!
鍔を右手で抑えた1000体目の、まだ逆手に剣を掴んだままの左手が水銀燈の首筋を狙う!
だが。
「うまくやったとでも思ってるのぉ?」
嘲笑を含んだ水銀燈のせりふ。
必殺の攻撃はいつまでたってもやってこない。
1000体目が呻いた。

影の左腕は地面に転がっていた。

さきほどの黒竜が逃げ道を塞ぐように見せかけて影の左腕を喰い千切っていたのである。
もう一方の黒竜が1000体目を下から突き上げる!
「うあああああああああああああああああああああああああっっっっっっっっ!」
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッ!」
絶叫しながら全力で暴れ、黒竜の牙から逃れた1000体目がバックステップで逃げる。
逃げざまに左肩から白の荊を伸ばして剣を回収する。
追って地面を蹴る水銀燈へと放たれた黒の荊を黒竜が飲み込む。
隙を突いて1000体目が白翼を広げて飛翔、水銀燈から遠ざかっていく。
「はぁっ、はっ。あはっ、あはは壊れちゃうふふ、はぁっはぁっ」
哂いながら飛んでいた1000体目が、突如バランスを崩して地面に激突する!?
顔面を地面にこすって止まった1000体目の後方でかしゃんかしゃあんと涼やかな音が鳴る。これは。
「逃げられると思ってるのぉ? ばっかじゃないのぉ?」
ふわりと、倒れ臥す影のとなりに水銀燈が降り立つ。
その繊手がつまんでいるのは白い――破片。
「 貴様ァ ァアッ!」
血を吐くような影の叫びを無視して水銀燈が破片を砕き割る。それは1000体目の翼の破片だ。

追いついた水銀燈が1000体目の片翼を叩き切ったのである。
ガラスのような翼は砕け散って、もう元には戻らない。
飛ぶことはできない。
「あははは、お姉様、壊すのですね? 私を壊すのですね? あァ、ついに私もこのときが来たのですね!」
歪んだ欲求が満たされているらしい1000体目の左肩から生える白い荊が蠢く。
「滅 ボサレ テタマル カァッ!」
ごぼォと音を立てて白い荊が水銀燈へと吶喊!
不意を衝かれた水銀燈が殴り飛ばされる。
「滅ビ ルノ  ハ貴 様ダ …… ッ!」
ゆらりと影が立ち上がる。
顔面の半分ほどを禍々しい模様で彩られている。
にたりと、
哂った。

右手で剣を拾って水銀燈へと駆け出す影!
ずるりと巻き戻った白の荊と入れ替わるように右手で剣を打ち下ろす!
ぐらりと頼りなく立ち上がっていた水銀燈は即座に剣を掲げて防御する――
爆発のごとく左肩の白の荊が水銀燈の胴へと突っ込んだ!
「がはッ」
水銀燈の足が浮く。
歯を食いしばって水銀燈が剣を握りなおして影へと振り下ろした!
受け流した1000体目の背後へと着地した水銀燈は一瞬、黒竜を顕現させて牽制――黒竜の間を縫うようにして白の荊が濁流のように押し寄せる!
横っ飛びに回避した水銀燈の眼前には1000体目の右足!
咄嗟にガードする水銀燈だがその剣が蹴り飛ばされる! 取り戻そうとする水銀燈よりも1000体目が左足を振り抜くほうが早い!
「うァ!」
顎を蹴られてふらつく水銀燈の頭上から影が歓喜の叫びを上げる!
「  死  ネ ェ !」
その左肩が膨張し、嘔吐するかのように白い荊が噴出、水銀燈を圧壊させる勢いで彼女に激突!

白くそそり立つ荊の墓石のしたで水銀燈は天を掴もうとするかのように右腕を掲げていた。

ぎゅう……ん、という
星の唸りのような音が聞こえて、
そしてそれがすべてを終わらせた。

人工精霊による極高熱の砲撃!
「「―――――」」
荊も人形も何もかも、すべてを炎が滅ぼし尽くして。
あっけなく、影は滅びた。

かしゃぁんと鏡が割れるように白い世界が崩壊していく。
きらきらと輝き砕けていく。
ひばりが鳴いて夢を覚ます直前の、ゆらめく虚幻の時間に水銀燈はふわりと、現れたベッドへと降り立つ。
がくりと力が抜けて倒れこむ水銀燈。
いまだ穏やかに眠るめぐの隣で、ぼろぼろになりながらも彼女はうすく笑った。
「めぐ……」
その夢和やかであれ、と願いながら。


おわり



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