からんころん
唐突だけれど、僕、からんの部屋には"ころん"がいる。
ころんは世話好きだけど時々いたずらもするお茶目なやつだ。
開けっ放しにしていたドアを閉めておいてくれたり、寝ていたらタオルケットをかけてくれたりするけど、電気をぱちぱちさせて遊んだりもする。
そんなころんは、見えない。
だから、おりんもはりんも信じてくれないんだけど、僕の部屋にはころんがいるんだ。
ころんは、僕の部屋においてある、もう何も映さないテレビに住んでいる。
まっくらな画面を見ていると、ぱちっと、音は鳴らないんだけれども、白く弾ける。ころんは照れ屋なのだ。
僕が床にごろんとしていると、テレビのほうから視線を感じる。
ころんは見えないから、もちろん何も見えない。
けど僕はにっこり笑ってテレビを拭いてやる。ころんはキレイ好きなのだ。
ころんは寂しがりやだから、僕が寝ていると隣にもぐりこんでくる。
そんなときは僕は黙って布団を半分わけてやるんだ。
ころんと寝ると、とってもぐっすり眠れるんだぜ。
僕は時々ころんと一緒に散歩に行く。
ころんは歩くのが遅い。
なぜって僕が通り過ぎたすこし後に集められたごみを崩したりするからだ。
きっとまだ小さいんだ。おりんの膝くらいしかないに違いない。といっても僕、からんもおりんの腰が目の高さだけれど。
ころんは僕の妹みたいなもんだ。
そうだ、からんところんは兄妹なのさ。
年月を経て、僕はぐっと大きくなり、はりんを追い越し、おりんを追い越すまで成長した。
大学へと通うようになって、ふと僕はころんのことを思い出した。
僕の妹、ころん。
さっそく部屋のテレビを眺めてみた。
何も映さないぽっかりと開いた暗闇の窓。ころんの住処はほこりまみれになっていた。
そのことに気づいて僕は呻いた。
ああ。
ああ。ころんよ。
僕の小さき妹よ。
君は死んでしまったんだな。
僕が君を忘れてしまったから。
ああ。
僕の妹、ころんよ。
君ははじめから僕の心に住んでいたんだ。ころんよ。
おりんが信じなくとも、はりんが信じなくとも、僕は信じていなければならなかったのに。
僕は君を忘れてしまった。
僕の心から消えてしまった。
ああ。ころんよ。
僕は何も映さぬテレビを捨てた。
暗い画面は僕の心を映していた。ころんを喪った僕は退屈な人間になった。ころんのいない世界は退屈な世界になった。
僕、からんの心には、もう何も住んでいない。
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