【傲慢】と愉快な仲間たち
〜サタナエルの場合〜
「む。シセア!」
「あ、ルシだー」
マモンの泉を越えたところでルシファーはサタナエルを見つけた。
王にふさわしき足取りで傲然と歩み寄るルシファーにたたたとサタナエルは駆けよる。
その足元から炎が噴きあがり、紅蓮の波濤となってルシファーへと迫る!
だが、まったく動じず、歩みを緩めもしないルシファー。
その細身を飲み込もうと肉薄した灼熱が、彼の衣服を揺らすこともなく唸り声のような音を轟かせながら消滅していく!
休む間もなく火線が左右から彼を挟撃するも、やはり直撃する寸前で火の粉を撒き散らして消え果てる。
さらに大気を焦がして頭上から10を越える炎弾が飛来!
それを見たルシファーの双眸がほそまる。
「―――――」
ルシファーが何事かを呟いた途端、炎弾が端から凍りつき、地面から伸びた氷柱に捉えられて停止するっ!
すうと伸ばしたルシファーの右手がぱちんと指をはじくと、高い音を響かせていっせいに氷像が砕け散っていく。
氷のかけらが地面に落ちるより早く、ルシファーの胸に衝撃。
「あっは、さすがルシファー!」
飛び込んできたサタナエルを抱きとめて、クルクル回りながらルシファーが苦笑する。
「シセア、今のは失敗すると私が死んでいたのだが」
サタナエルを受け止めて抱きしめながらルシファーが微笑する。
「んー……、それはそれで!」
「そうだな」
それでいいのかルシファー。
「……ん?」
けらけら笑っていたサタナエルがおもむろに表情を消して後じさったので、ルシファーはいぶかしんだ。
「どうしたシセア」
「ルシ……」
「寒い」
「なに……っ!?」
冷気を司る魔王であるルシファーはそのあふれる魔力ゆえに彼の周囲の気温を下げてしまうのだ。灼熱の化身たるサタナエルでも肌寒さを覚えるこの季節、ルシファーに密着することはうちわで扇がれることに等しい。
「じゃあねっ、ルシ!」
「――ぁ………」
おおきく手を振り、おお寒いと自身をかき抱いて走り去るサタナエルへと差し出された彼の手を温めるものは、いない。
「しくしく……」
「どうしたのあれ」
「ほっとけ……」
〜その他の場合〜
「その他ってなんだよ! 十把一絡げにもほどがある!」
向こうの方をルシファーが歩いていくのを見ながらガドフリーは絶叫した。
それを隣のガートルードがたしなめる。
「ルシファーの奴は嬢しか見えてないんだから仕方がないだろ。だいたいガドは特にルシファーと仲がいいわけじゃないだろうが」
「なんだとう! 見てろよ―――おーい! ルシファーっ!」
大声をあげ、手を振って魔王に呼びかけるガドフリー。
声は届いたはずだが、
「……………」
「……………」
彼はこちらを向くことすらせずに立ち去っていく。
「ほらな。あいついつもあんな感じだぞ」
「なんか涙が出てきた。ガーティ、抱きしめて癒しデギュァッ!?」
眠たそうなアイニがぼーっとしているとロノウェが少し離れたところを指差した。
指の先には【傲慢】の魔王、ルシファーが堂々と歩いていた。
「ルシファー様とアイニってちょっと似てるよね。無愛想なところとか」
「さぁ」
「ほら、似てる似てる」
楽しそうにロノウェが笑う。
「……………」
「でもルシファー様ってちょっと変わってると思わない?」
なんといったらいいのかわかんないけど、とロノウェ。それに対してアイニはぼんやりと、
「……ロノウェも」
「アンタに言われたくないわーッ!」
ルシファーが迷いなき歩調で進んでいると、道端に双角と尻尾を生やした娘が座り込んでいた。
彼と同じく七罪の魔王が一人、【嫉妬】レヴィアタンである。
どうやらたくましく咲いた白い花を見ているようであったが、ルシファーに気づくとじろりと彼を見上げた。
ルシファーもその視線に気づいて尊大な態度で彼女を見下ろした。
一瞬、二人の視線が交錯する――
が、次の瞬間には二人とも目線を元に戻した。
ルシファーは好奇心も凍てつくツンドラ、レヴィアタンは興味も涸れ果てた砂漠といった様相である。
尻尾がぱたりと地を打ち、また二人の距離は開いていった。
金の輝きを放つファルニア樹が群生する泉のほとり。
したしたとあくまで上品に、しかし気高さと力強さを感じさせる態度でルシファーが歩みを進めている。
「おっとー! そこに見えるはバカップルの片割れじゃないですかよ!」
ずざあっと葉を引き連れてマモンが頭上から颯爽と登場。
「おめー一人で何してるですか。また私の場所を荒らしに来たってのですか。まったく迷惑な……」
ひゅんと武器である巨大ハンマーを回すマモン。
「だいたいおめーらは人気も出番もありやがるからって調子に乗ってるんじゃないですかよ。でもそんな時代ももう終わりですよ!」
ハンマーをゴッと地面に叩きつけて魔法を発動、魔導反応が大地を光らせる!
「ここでタマとったるぁーッ!!」
しかし。
「……あ、あれ?」
何も起こらない。否、地面が凍りついていてマモンの支配を受け付けないのだ。
「ちょっ、おめー、そういえばさっきから一言も喋ってねえじゃねえですかッ! 言葉すら発する必要がないとでも言うのですかよ!」
ぎゃんぎゃん噛み付くマモンはハンマーを振りかぶり、
「無視、するなですよッ……、ぎゃあっ?」
ルシファーに飛びかかろうとして地面に顔から突っ込んでこけた。
彼女の履物は氷によってかちんと大地に接着されており、履物のすっぽ抜けたマモンはそのまま倒れたというわけである。
「う、うう。出番が終わってしまう……、こ、ここでなんとかしないと出番が……」
じたばたともがき、立ち上がろうとするマモンだが、手をつけば手が凍りつき、踏ん張れば足が離れなくなる。
「こっ、このままじゃオチなしですよ! おめーそれでもいいですかよ!?」
したしたとあくまで上品に、しかし気高さと王の力強さを感じさせる歩みでルシファーが歩み去っていく。
マモンを無視したまま。
Fin.
「マジでオチ無しですかよ!」
IRA/黒瀬さん
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