<‘DEUS EX MACHINA’STARTUP>
<MASS;START SCANNING MEMORY>
<MASS;CHECK CONDITION><MASS;CONDITION ALL GREEN>
<MASS;‘MICHELLE’RELEASE>
<MASS;COMPETENCE LIBERTY 25%>
<MASS;FIRST LIMIT SEAL><MASS;SECOND LIMIT SEAL><MASS;THIRD LIMIT SEAL><MASS;FOURTH LIMIT SEAL><MASS;FIFTH LIMIT SEAL><MASS;SIXTH LIMIT SEAL><MASS;SEVENTH LIMIT SEAL><MASS;EIGHTH LIMIT SEAL>
<MASS;ALL SYSTEM EXCITATION>
<MASS;‘DEX-0317’INSTALL>
<MASS;"Hello,World!!">
<THIN;ええっとー? 今度の相手は、なんだー?[last]>
<MASS;START ‘ACQUISITION SYSTEM’>
3024523秒―――すなわち約2週間ぶりに人工人体「デウス・エクス・マキナ」に伝送されたDEXは、捕捉システムを使って相手を認識した。
輻射線や電磁反応といった生体反応、X線による骨格の観測、重力歪みから相手を人間だと特定。
前回のときと同じく一人だ。
「へへえー? こいつがオレサマと闘うってのか? すげェなぁー」
茫洋とした声を上げる眼前の人物は、軽薄そうな若者である。
両手にガントレットをしていて、その間を太目のワイヤーがつないでいる。
手枷のようにも見えるそれを揺らして、彼は笑った。
「よォー、ちゃっちゃと始めようぜェー?」
準備運動のつもりか、とんとんと足踏みする彼に、DEXはおおきく頷いた。
「おっ、わかってるだなァ! へへえー」
戦闘、開始。
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<WORD;対象接近感知>
思考結晶"みしぇる"が、相手が駆けてくるのを知らせる。
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<THIN;足技を使うのかな? きっとそうだよね。腕は拘束されてるもの[last]>
たたん、と軽快な音をさせて、DEXの予想通りに相手の左足刀が疾る。
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<WORD;攻撃予兆感知><WORD;回避可能><WORD;防御可能><WORD;捕獲可能><WORD;反撃可能>
思考結晶に言われるまでもなく隙だらけの攻撃。元来、組み合いを基礎とするDEXはそれなりの速度で風を切る足を余裕綽々で掴んだ。
「へへえー? やるじゃないの」
相手はにやっと笑った。
ぎゅる、と。
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<THIN;そんなッ!?[last]>
掴まれた左足を軸に、相手の体がぐるりと回転。右足が外を通ってDEXの頭部へと襲いかかるっ!
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<MASS;DANGER>
<THIN;やばいぞやばいぞ! 逃げろ逃げろ逃げろ![last]>
つっぱねるように相手の足を離して、両足の端末が反射するままに床を蹴る。ひゅっと音を立てて寸前までDEXがいた場所を右足刀が駆け抜けていく。
DEXはもうひとっとびして間合いを離した。
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<MASS;TARGET POINT="8.2-0""0">
<THIN;わざとだ! わざとあんなスキだらけの攻撃を繰り出して変則技で不意をつく作戦![last]>
猫のように空中で器用に体勢を立て直した相手は着地の直後に休むことなく床を蹴った。
身を低めて疾駆してくる相手に、DEXは
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<WORD;対象接近感知>
<MASS;LIBERATE EIGHTH LIMIT SEAL>
<WORD;身体制御限界再設定>
<MASS;COMPETENCE LIBERTY 35%>
警戒レヴェルを一段階引き上げて迎え撃つ準備を完了させていた。
薄く身を開いて構えながら戦法をサーバであるスーパー量子コンピュータからダウンロードする。
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<WORD;戦闘教義=“紫電の王”装着>
<MASS;LOAD ‘DEAD ARES SIR’>
<THIN;今度はやられないぞ![last]>
掴んでは反撃されると学習したDEXは戦法をヒット&アウェイ方式へと組み替える。
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<WORD;攻撃予兆感知>
肉薄した相手が跳び上がって前蹴りを繰り出してくる!
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<MASS;RELEASE‘ORACLE’><MASS;COPERATION COMPLETE><WORD;軌道予測完了>
デーモン『神託』が相手の連撃の手を弾き出す。
繰り出した前蹴りを防がれれば上へと抜いた逆の足、つまり左足がかかと落としを放ち、さらにフリーになった右足が破砕機のようなシュートを胴に叩き込むというもの。
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<THIN;そんなの喰らってられないっての![last]>
稲妻のようにレフトアームが駆動、迫る右足を軽く叩く。軌道がずれた右足は、二撃目の予備動作に入っていた左足をも抑える。
体勢の崩れる相手。すばやく立て直そうとするがしかし、その胴はがら空き!
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<MASS;RUN ‘DEAD ARES SIR’>
デッドアレッサが発動。
ギリギリとライトアームに溜め込まれていたエネルギーが爆発、その掌低が亜音速で相手に激突!
ぎしっ!
骨の軋むような音ともに相手が吹き飛ぶ!
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<THIN;!?[last]>
<MASS;TARGET POINT="19.6-0""2.2">
<THIN;なんだ!? 当たったのに、ダメージを与えられてない!?[last]>
とんぼ返りして見事な着地を決めた相手が面を上げる。そこにはすこぶる楽しそうな笑顔があった。
「へへへっへへ。ビックリしたか? これ、拘束具だと思ったろ?」
両腕を持ち上げて右手と左手をつなぐワイヤーを見せつける相手。DEXは仮想意識だけで歯軋りした。
「これがオレサマの武器だってことよ」
"みしぇる"が相手の情報を理解する。つまり、相手は足技使いなどではなかったのだ。その真の武器は肉体でも剣でも銃でもなく、ワイヤー。サーバのメモリに蓄積された、DEXの強さの一因でもある莫大な量の蓄積情報を逆手に取った見事な心理作戦ともいえる。
ワイヤーが武器なんて見たことも聞いたことも無い。どう攻撃してくるのかわからないから対処法もわからない。
DEXが思考停止に陥っている間、相手は少し考えていた。
(今の攻撃はかなり危なかった……。"ヨルムンガンド"はまだまだ使うつもりじゃなかったんだが、コレ使ってなかったらヤバかったぞ。内臓破裂に複雑骨折ってところだった)
"ヨルムンガンド"は彼の武器、ワイヤーの名前である。正式名称は炭素管状一次元軌道兵器ヨルムンガンドといい、正確には炭素でできた特殊な軽量・強強度のワイヤーと、先端を保持・固定する左枷、ワイヤーを繰り出す右枷、腰に提げた駆動機関の四つをまとめて指す。
腰の駆動機関はウィンチであり、強力な駆動力によってワイヤーを巻き取ることができる。
さきほどは、DEXのデッドアレッサを両手間のワイヤーで防ぎ、ウィンチを駆動させてワイヤーを巻き取ることによりパチンコ(あるいはスリングショット)の如く自ら弾き飛ばされたのである。
骨が軋むような音はヨルムンガンドの駆動音だったのだ。
ぎぎゃっ
ウィンチを駆動、ワイヤーを巻き取って両拳を打ちつける。その両拳を左腰まで回して居合いのような構えをとる。
ぴくんとDEXが顔を上げる。
感知能力が高い。しかし予想外の出来事には瞬時には対応できない機械だろう。ほら、
彼は床を蹴ると尋常でない距離を踏み越え、右手を振るう。
ぎゅうんっ
反射的に突き出されたライトアームに右枷から伸びたワイヤーが巻きつく。再び床を蹴った彼は軽く3メートルを跳びあがる。ウィンチが吼えてワイヤーが巻き取られる。
引っ張られて体勢を崩されまいとするDEX。
急激な勢いで肉薄したDEXへと彼が空中から回し蹴りを繰り出す。接近の勢いも乗せた重い一撃がDEXの顔面に直撃する!
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<MASS;DAMAGE><WORD;損傷率11%:最短復帰時間89msec.><WORD;復帰><MASS;CANCEL:PARALLEL CONSCIOUSNESS RUN><RESTART‘ACQUISITION SYSTEM’>
衝撃に吹っ飛んでいた意識がコンマ約9秒で復帰し、体勢を立て直そうと捕捉システムをリスタートさせる。同時に、緊急用に並行展開されている第二意識への接続を棄却。
攻撃による衝撃で後方へ流れていた上体を引き戻そうとする。
だが、DEXの命令よりも早く上体が引っ張り戻される、相手のワイヤーがまだライトアームに巻きついたまま、巻き取られていくっ!?
滞空したまま、回し蹴りの反動とワイヤーの張力によって相手が逆回転、円弧を描いた彼の左足がDEXの右側頭部に激突、同時にライトアームに巻かれていたワイヤーを器用にはずして巻き取り、DEXの拘束を解除。
衝撃のままに5,6メートル吹っ飛んだDEXはさらに2メートル滑ってようやく止まった。いつもなら受身を取って軽く起き上がるのだが、相手の動きが予想外すぎてデーモン『神託』も意味を成さないゆえに対応できないのである。
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<MASS;DAMAGE><WORD;損傷率21%:最短復帰時間299msec.>
DEXが倒れふす約3秒の間に相手は再度跳躍、おおきく右手を振るって蛇のようにワイヤーを走らせる!
<WORD;復帰><MASS;CANCEL:PARALLEL CONSCIOUSNESS RUN><MASS;RESTART‘ACQUISITION SYSTEM’>
<THIN;これはやばい……! ワイヤーの軌道が複雑すぎて予測演算が間に合わない……。それに困ったことに、相手はまだ手を隠し持ってるみたいだ……![last]>
3メートル上空から襲い来るワイヤーを転がって避ける。鞭打つような破裂音が響く。
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<WORD;戦闘教義=“void”>
<THIN;とにかく、ワイヤーの動きを見極めないと。そのためにもダメージなんか喰らってられないぞ……![last]>
<WORD;攻撃予兆感知>
鞭のように自在に操られるワイヤーが再びDEXへと襲いかかる! 足元を狙う低空攻撃!
冷静にデーモン『神託』を走らせて軌道予測、ひょいと跳び退ってワイヤーを回避。それを見越して相手は右腕を引いており、ワイヤーもその動きを忠実に伝えてDEXに疾る―――予測演算完了、DEXがわずかに跳びあがってワイヤーを跳び越える、ワイヤーは破裂音を鳴らして反転、高さをあげて四度目の強襲を予測演算によって軌道を29%の誤差で予測、即座に体を反転させてワイヤーの先を避ける!
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<MASS;INFORMATION FATIGUE ACCUMULATE><WORD;疲労蓄積率23%><WORD;予測演算精度増加><WORD;容量不足:捕捉システム観測範囲縮小><WORD;容量不足:第二意識圧縮>
円弧を描いたワイヤーが鎌首をもたげて急襲! のけぞって回避するDEXの擬似網膜が相手の姿を見失う。
足をすくうように動いた"ヨルムンガンド"を――軌道予測演算完了――側転して見事に避け、
正反対の方向からの激烈な衝撃!
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<MASS;DAMAGE>
<WORD;損傷率58%:最短復帰時間8400428msec.><MASS;PARALLEL CONSCIOUSNESS RUN>
深刻なダメージを負ったDEXは意識を強制遮断され、二時間以上ものシャットダウンを余儀なくされる。しかし即座に第二意識へと移行しなんとか着地、はげしく合成素材の床を滑って停止。
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<MASS;RESTART’ACQUISITION SYSTEM’>
<WORD;対象接近感知><MASS;DANGER>
<MASS;TARGET POINT="1.98-3/4π""0">
<MASS;RELEASE ’ORACLE’><MASS;OPERATION COMPLETE>
<WORD;攻撃予兆感知>
<THIN;さっきのはなんだ? 縮小した観測範囲の外から、しかもワイヤーを囮にした本体の攻撃か![last]>
先ほどの攻撃はDEXの推測どおり、ワイヤーを囮にした蹴りであった。
体勢を立て直したDEXにむかってまっすぐ伸びる"ヨルムンガンド"! しかしすでに完了していたデーモン『神託』の演算がはじき出した未来予測によってDEXはワイヤーによる攻撃を軽くかわす。
ワイヤーが床を叩く破裂音が擬似鼓膜に届く前にDEXは一挙動で跳びあがって、スライディングを決めてきた相手をよける。
着地と同時に相手を追いかけようとするDEXの眼前に迫る"ヨルムンガンド"。慣性をムリヤリ殺してワイヤーを回避するが体は崩れてしまう。
牽制の成功した相手は悠々と立ち上がり、ワイヤーをまき戻した。
「へへえー、すげえだろ。そろそろ降参しないか? 得意の計算でもすればわかるだろ? オレサマの勝ちだ、ロボ君」
"ヨルムンガンド"を元の手枷の状態に戻してへらへらと笑った。
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<THIN;まだだ……。まだ敗けじゃない。まだやれる、まだ勝てる……![last]>
唯一の意思表示としてDEXは首を横に振る。
それをみた相手ははーあと軽く息を吐き、
「しゃーねーなぁ。クロプツフェル力学全開でぶっ倒してやるよっ」
にやっと笑った。
猛然と走り寄るDEXへと這い寄る"ヨルムンガンド"。
飛びのきながらワイヤーを奔らせ、こちらから遠ざかっていく相手を見てDEXは仮想意識だけでうなずく。
やはり相手は近距離戦闘には持ち込まれたくないようだ。
……よし、接近戦だ。それで決める!
デーモン『神託』を走らせてワイヤーの軌道を予測しながらさらに捕捉システムの集中点を相手本体へとシフト。
クロプツフェル力学という謎の方法によって自在に操られる"ヨルムンガンド"に悪戦苦闘しながらもDEXは着実に相手を追い詰めていく。
具体的には立方体をしたこの実験室の角へと誘導しているのである。
そうやって相手が距離を取れなくしたのである。
「へへえー? こりゃやられたなァ――」
目を眇めて背後の壁を見遣りながら相手。その彼の右腕が大きく振られ、
「――なんて言うとでも思ったか? ひははッ!」
呵呵する相手はバックステップして壁に着地、伸びたワイヤーはDEXのライトアームを捕らえた。
畳んだ両足のばねを開放してDEXを飛び越えんと相手が壁を蹴る。
DEXが仮想意識だけで笑った。
ライトアームに絡んだ"ヨルムンガンド"を引っ張る。当然それに相手も引っ張られる。
(考えたな。"ヨルムンガンド"を使ってオレサマを近接戦闘に持ち込もうってのか。けど甘ェ!)
空中で引っ張られ、体勢を崩しながらも相手は冷静に判断を下した。ワイヤーをさらに伸ばしたのである。これでどれだけDEXが引っ張っても距離は縮まない。
DEXの作戦は失敗した。
かに思えた。
しかし。
ワイヤーを伸ばそうがどうしようが、着地はしなければならない。
そしてその地点はデーモン『神託』によって軽くはじき出せる。
ならば先回りしてしまえばいいのだ。
DEXの作戦はワイヤーを引っ張るものではなく、前へとジャンプさせること。
そして今、条件は整った。
「……そういうことかよ」
着地体勢に入っていた相手の襟首にレフトアームを滑り込ませ、その左腕をライトアームでつかむ。
<MASS;CONTINUATION DEX-0317>
<THIN;これで、終わりだッ![last]>
相手がワイヤー使いだろうとクロプツフェル力学という謎の力を持っていようと、このカタチはDEXの絶対の間合い。ここまで持ち込めばもう何も関係ない。詰みだ。
ずどんっ
DEXの渾身の一撃は、相手を背中から合成素材の床へと叩きつけて一瞬にして意識を刈り取った。
「どうですか。やはり失敗でしょう。いや、研究所の連中もがんばったほうでしょう。私のDEXが素晴らしいのですね。そう思うでしょう?」
得意そうに語るこの不気味な女博士をとりあえず無視して俺はうなった。
ワイヤーを自在に操る?
身体能力がバカに高い?
それだけじゃないな。クロプツフェル力学は俺が予想していた以上に汎用性のある学問だ。どうやらまだまだ進化の余地を残している上に、某国が世界征服を目指して全面的にバックアップしているなんて、最悪のシナリオ。
「DEXの素晴らしいところはですね、やはりその柔軟な思考ですかね。いや、その思考結晶を作ったのは私なんですけどね。さすがにワイヤーが武器だなんて思いもしなかったようですけどね、それでもすぐに相手の特性を判断して流れを作り出し、勝利を導出したでしょう」
戦闘実験を写していた今は砂嵐のディスプレイを押しやり、別の真っ黒な背景のディスプレイを引っ張ってくるミス・ミシェル。
ん、これはDEXのアレじゃないのか。
<THIN;やっほー久しぶり。勝ったよー、すごいでしょー?[last]>
黒の画面に白文字で、タタタタタと文字が走る。DEXだ。
「クロプツフェル力学ってのはわかってるのか?」
俺がミス・ミシェルに聞くと、彼女が答えるより先にディスプレイに文字が出力される。
<THIN;あのあと博士から聞いたよ。反則だよねー既存の物理法則を書き換えるなんてさ。あのジャンプ力とか見た? 僕、捕捉システムがイカれたのかと思ったよ[last]>
「それだけじゃないな、クロプツフェル力学が利用されてるのは。わからなかったか?」
<THIN;平衡感覚がおかしいくらいに高度だよね、人間にしては。猫みたいだ。あと反射速度も尋常じゃないね。平衡感覚も反射速度も、素養はあったのかもしれないけど、クロプツフェル力学によって向上してることは確かなんじゃない?[last]>
やっぱりか。
おそらくさっきの映像の少女はワイヤーの奴を上回る身体能力向上を得ているはずだ。
そして、俺が見たように、俺たちが生きている物理学をぶち壊す攻撃をしてくる。
世界はクロプツフェル力学の前に膝を屈してしまうのか……?
<THIN;――でも大丈夫だよ[last]>
ディスプレイに光る言葉。それはDEXのせりふ。
<THIN;勝てる。僕は、クロプツフェル力学とやらには負けたりしないよ。だからお兄さん、お兄さんも負けちゃダメだよ。信じて。僕らは勝てるんだ[last]>
感情なんて表さない、ディスプレイに映ったただの文字列のはずなのに、なんて頼れるセリフなんだ。DEXの自信が目に見えるようだ。
人工知能に励まされるなんて、俺も相当キてるのかな。笑えてくる。まるで俺の危惧を霧消させるように。
寄っていた眉根を揉みほぐして、前を見る。うつむくな。相手を見失うな。
俺たちは勝てる。
「ああ、そうだな。約束だ。あんな連中に負けてたまるか」
そういって、俺は笑った。
虚勢でもなんでもなく、ただ信じることによって。
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